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ジャンナはイタリア⼈の夫と娘のアリーチェとニューヨークで暮らしていた。 三歳の時にロシアを離れ、思春期を迎えたアリーチェとはどこか“⾔葉”が通じない。そんな娘にルーツの祖国を知ってもらいたいと、休暇にあわせ三⼈は縦横無尽にロシアを旅した。四つの夏と⼀つの冬の旅を含む家族の記録には、⺟娘のズレとロシアのリアルが映っている。「ロシア⼈らしさ」を求める⺟を理解しつつも、受け⼊れることも、受け流すこともできないアリーチェ。ロシアを偉⼤で素晴らしい国だと信じ、誇りを胸に仕事を全うするジャンナ。広⼤な⼟地にまばらな⼈家、豊かとは⾔えない⼈々の暮らし、少しずつ濃くなる戦争の気配———。伝えられることのないロシアの現実(ニュース)と、語られることのない家族の秘密。そして、アリーチェの決定的なひと⾔をきっかけに、ロシアを巡る家族旅⾏はジャンナの内省の旅へと変貌を遂げる。

ジャンナ・アガラコワは現在、「外国の代理⼈」に指定され、事実上の亡命⽣活を送っている。そんな彼⼥が 3年の歳⽉をかけ、数百時間に及ぶ映像から編み上げた本作は、祖国と家族を愛するがゆえの⾃らの過ちと悔恨を包み隠さず描き出す。ソ連崩壊という動乱の時代に⾃由と変化の兆しを感じて、ジャンナはジャーナリストになり、順調にキャリアを築いていった。その⼀⽅で、テレビから市井の⼈々の姿が消え、ニュースはプーチン⼀⾊に染まっていった。そして始まった戦争は、今も続いている。無⾃覚なまま沈黙と妥協を重ねてきた彼⼥が、ジャーナリストとして、⺟として、⾃⾝の良⼼と向き合い完成させた、愛と嘘、そして故郷喪失の痛みを綴った、私的かつ詩的なドキュメンタリー。

ジャンナ・アガラコワ

監督・共同脚本・共同編集・出演

ジャンナ・アガラコワ

Zhanna Agalakova

この映画は私自身の物語です。

私はペレストロイカとグラスノスチの時代を生きた世代です。壁や国境のない世界を信じていました。90年代はじめ、私がジャーナリストとしてのキャリアを始めた頃、ロシアは一人当たりのメディア数が史上最多を記録していました。あらゆる話題、あらゆる問題が、かつてないほど報道で議論されていました。私は自分の仕事を救急隊員や救急医療従事者のような、必要不可欠で重要なものと捉えていました。ジャーナリストとして、自由な社会を築くことに参加しているのだと信じていました。

30年経った今、自問せざるを得ません。どうして私は気づかぬうちに、プロパガンダ機関の歯車へと変貌してしまったのか?

1999年にウラジーミル・プーチンが政権を握って以来、ロシアの反体制メディアは弾圧を受け、その多くはすぐに閉鎖され、その他は「外国の代理人」とレッテルを貼られ、その活動は極めて困難なものとなりました。多くのジャーナリストや政敵が投獄され、亡命に追い込まれ、あるいは殺害された。クレムリンと政権に同調する人たちだけがロシア国内のニュースメーカーとなり、一般市民や彼らが抱える問題は、国営メディアにとって、もう見えないものとなっています。

私は、アレクサンドル・ソルジェニーツィンの足跡をたどる旅として、この映画を制作し始めました。『収容所群島』の著者であるこの亡命作家は、1994年、ソ連崩壊後のロシアの様子をこの目で見ようと、ロシア全土を旅することを決意しました。彼は、出会った人々から直接、その体験談を集めました。

私は、国営メディアの報道で、この国が最盛期であるかのように映し出されていた頃に、この旅を始めました。しかし、テレビ画面の中と現実の社会のギャップは驚くべきものであり、その嘘の作り手の一人であったことを知った私は、もはや以前と同じではいられませんでした。

私は自分自身に問いかけました。「私はなぜ、自由を少しずつ手放し、その代わりに安定や地位、帰属意識を選んできたのだろうか。」

個人的な旅として始まったこの旅は、イデオロギー、家族、そして真実の代償をめぐる、親密で多層的な探求へと発展していきます。

この映画の原題『小さな灰色のオオカミがやってくる』は、ロシアで古くから歌い継がれてきた子守唄の一節に由来しています。何世紀にもわたり、ロシアの母親たちは赤ん坊にこう歌ってきました。

「おやすみ、じっとしていなさい。さもないと小さな灰色のオオカミがやってきて、森へ連れて行ってしまうから」。

2022年2月、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始したとき、大多数のロシア人の沈黙と不作為は、耳を塞がれているような、大きな衝撃を私に与えました。

私には、もはや沈黙を守り「小さな灰色のオオカミ」を待つことはできませんでした。

だからこそ、この映画を作ったのです。

ジョルジオ・サヴォーナ
Giorgio Savona

撮影監督・共同プロデューサー・共同脚本・出演

イタリア生まれ。父親に誘われ、物理学を学ぶ学生時代にロシアに滞在。ジャンナ・アガラコワと出会い、後に結婚。ヨーロッパの複数の大学で物理学の研究者・教授として活動した後、2011年に科学の道を離れ、ニューヨークでGetty Imagesのフォトジャーナリストに転身。その後は映画制作へと活動の幅を広げ、長編映画で撮影助手を務めたのち、カメラマン、撮影監督として本格的に活動するようになる。社会問題をテーマとしたドキュメンタリー・シリーズ、テレビ報道、短編映画の制作に携わる。報道の分野では、CNN、HBO、Bloomberg、France 24、ZDF、La Sexta、Aragón TV、Olympic Channelなどの国際メディアのために、フランス、スペイン、イタリアを中心にニュースや時事問題を取材。政治報道や各国首脳へのインタビューから、世界に向けて発信される速報ニュースまで、幅広いテーマを撮影している。2024年には、パリ・オリンピックの撮影も担当した。現在はパリを拠点に、国際的なニュースメディアのカメラマンとしても継続的に活動する一方で、独立系ドキュメンタリー作品の制作にも精力的に取り組んでいる。
新しいカメラを手に入れると、自宅やあらゆる場所で試し撮りをしないと気がすまない。

アリーチェ・サヴォーナ
Alice Savona

セカンドカメラ・出演

2002年、イタリア生まれ。イタリア人の父とロシア人の母の間に生まれ、3歳でロシアを離れる。以後、パリ、ニューヨークで育つ。フランス系の学校に通い、イタリア語、ロシア語、英語、フランス語を話す。現在は量子物理学を研究中。絵を描くこととアニメを観ることが大好きでジブリ作品はすべて観ている。

創造的なストーリーテリングと卓越した編集によって、家族、アイデンティティ、そして勇気という普遍的なテーマを深く掘り下げた、力強く心を動かす作品である

Sheffield DocFest

ジャンナ・アガラコワの人生の旅路を通して、繊細な政治的考察を織り交ぜながら、一人の人間の物語として描き出す本作は、危機の時代におけるメディアの役割と、個人が負う責任について深い問いを投げかけている。

BlackCAT24

この映画は、ロシアに批判的な一部の人々から必ずしも好意的に受け止められないかもしれない。また、ウクライナで歓迎されることも、おそらくないだろう。しかしそれは、自国の政府が不当な戦争を遂行している時代において、「人間らしくある」とはどういうことかという、この作品の価値を少しも損なうものではない。

Modern Times Magazine ニック・ホールズワース

この映画で最も印象的なのは、その強烈な力———本能的で、率直で、ありのままの迫力である。観客は、形式張らない雰囲気の中で、この多文化的な家族に迎え入れられ、共に感情を揺さぶられながら、共同主人公であり監督でもあるひとりの女性の意識の変化を見届けることになる。彼女は、自身が歩んできた政治的、職業的、そして個人的な葛藤の道のりを映像として見事に表現している。ロシアが誇る、世界でも唯一無二ともいえる豊かな文化を称えながら、同時に現在のプーチン政権を告発する作品である。

Taxidrivers ルカ・ボーヴェ
メインビジュアル

この、幾層にも重なった痛みと寛容さをたたえた家族の日記のようなドキュメンタリーは、長年プーチンのプロパガンダ機関に関わってきたことへの単なる“贖罪の告白”ではない。むしろ、彼女がその決断に至るまでの年月の中で抱えていた、葛藤に満ちた複雑な思いと動機のせめぎ合いを浮かび上がらせる作品である。

Documentary Magazine ニック・ブラッドショー